ChatGPTと弁護士業務
May 08,2023
1 「ChatGPTにより、新しい時代に入ることが確定した。賽は投げられた。」
ChatGPTが話題となっています。「ChatGPTにより、新しい時代に入ることが確定した。賽は投げられた。」とは、自民党の「AIの進化と実装に関するプロジェクトチーム」で東京大学の松尾豊教授が提出した資料「AIの進化と日本の戦略」の中の言葉です。また、この資料の中ではこれまでのホワイトカラーの仕事ほぼ全てに影響が出る可能性が高いと言われています。
ここでは、ChatGPTと弁護士業務という観点から考察してみたいと思います。
2 現段階では役に立たない
結論からいうと、現時点においては、そもそも学習データが古いですし、回答に誤りが多すぎて信用できず、弁護士のコアとなる業務に関しては役に立ちません(しかも、完全な誤りを自信満々であたかも正解かのように回答するので要注意です。ウラをとらずに信用すると大変なことになります)。
一方で、誤りも含めていくらでも回答を生成してくれるので、ブレインストーミング的に「その発想があったのか」と、アイデアをアウトプットさせる使い方、何か網羅的な情報をアウトプットさせる使い方、簡単な計算などをさせる使い方はできると思います。
また、Word、Excel、PowerPoint、Outlook、Teams などの Office製品にChatGPT を接続するCopilotが統合され、販促資料やプレゼン資料の自動生成ができるようになるため、弁護士の周辺業務についてはかなり効率化がされる(人間が自分で打つ時代は終わり、情報の収集、要約、可視化まで自動化されていく)ことが期待されます。
3 「目的に特化した」学習をさせれば、専用のGhatGPTが作れる
ChatGPTは、言語モデルの一種で、基本的にはインターネットから大量のテキストを収集して学習します。そもそも、データを学習するという言語モデルの構造上、間違いが混入するのは仕方がないといえます。それでも基本的に英語で記述されるプログラミングなどはデータが豊富であり、的確な指示を与えればかなり精度の高いアウトプットがされるようです。しかし、日本に限ったルールが日本語で記述される日本法に関する情報に関しては、データが少なく、学習量に決定的な差があるため、精度が低いのはやむを得ないと考えられます。
しかし、今後、「目的に特化した」学習をさせれば、専用のGhatGPTが作れるとされます。法律に専門特化したChatGPTも生まれる可能性はあります。それでも、データが蓄積されるのを待つ必要があるため、常に最新の法規や裁判例の情報がアウトプットされるという訳にはいかないとは思われます。
このようなサービスが市民権を得て、将来的には弁護士業務の基本的なツールになっている未来は充分ありえると思われます。その場合でも、適切なアウトプットを導くインプットを入力する力は必要ですし、アウトプットされた結果が正しいかどうかのウラをとる必要は残るでしょう。また、スジが悪くても法律構成を考え土俵に上げた上で着地させる力であったり、社会の変遷にともない、過去の価値観や法規範を書き換える力は引き続き重要になると思います。
4 情報管理の観点から
OpenAI社の利用規約によれば、原則として、インプットしたデータについては、OpenAIのサービス改善のために利用される可能性があるとされています。API経由で提供されたデータはサービス改善のために利用されない、データの利用を拒否するためにオプトアウト(適用除外)することも可能である、などの例外はありますが、さしあたり情報のインプットには慎重な配慮が必要であると考えられます。
5 まとめ
現時点においては、まだ精度が低いですが、今後精度が向上するのは間違いでしょう。今ではほとんどの弁護士が、当たり前のように(昔はなかった)パソコンを使用して弁護士業務を行っているように、ChatGPT(あるいは別のAI)を当たり前のように使用して弁護士業務を行っている未来もそう遠くはないのではないでしょうか。